アンドロゲン受容体バリアントAR−V7 2020年08月31日

ホルモン治療をやっていると、前立腺がんは、最初、ビカルタミドなどの古典的な抗アンドロゲン・ホルモン薬に感受性を示すが、続けていくうちに効かなくなると云われている(最後までビカルタミドが効いた人もいる)。そこで、新規治療薬として、引き続き、または条件によっては私のように始めから、エンザルタミドまたはアビラテロンを投与するが、新規治療薬もまた効かなくなると云われている(ずっと効き続ける人は当然いると思うが、そういう人はインターネットを検索しても、いまのところ見つからない)。

このように、ホルモン治療薬に抵抗性を示す前立腺がんを去勢抵抗性前立腺癌(castration-resistant prostate cancer;CRPC )と云う。細胞レベルで見たCRPCの特徴とはなにか? 自分なりに調べてみた。

前立腺がん細胞はアンドロゲン(男性ホルモン)が結合する部位をもっており、これをアンドロゲン受容体(androgen receptor: AR)という。ARにアンドロゲンが結合すると、その結合体が核内へ移行しDNAに作用することで、がん細胞の増殖がおこる。上にあげたようなホルモン治療薬は、アンドロゲンがARに結合するのを阻害することで、前立腺がん細胞の増殖を防止するわけである。

ところが最近、アンドロゲンが結合するはずの部位が欠損した、ARスプライシングバリアント(ARの一部が欠損した変異体)が存在することがわかってきた。ARスプライシングバリアントにはいくつかの種類があるが、その中でも最も治療耐性を示すAR−V7というやつが注目されている。AR−V7が出現した前立腺がん細胞は、アンドロゲンの存在の有無に関わらずARが恒常的に活性化されている。したがって、ホルモン薬剤耐性を示し、去勢環境下においてもがん細胞は増殖する。ただ、ドセタキセルなどの化学物質抗がん剤はそれなりに効くようである。

AR−V7はエンザルタミドやアビラテロンをいくら投与しても効かないので、まさにCRPCの王様である。こいつに取り憑かれたら非常にやばいことになる。

コメント

このブログの人気の投稿

イクスタンジもゾーフィゴも効いていない! 2023年05月19日 

ジェブタナまた延期 2024年02月08日

病院を紹介される 2019年10月11日