食後のインスリン分泌  2020年06月17日

がんは生活習慣病だと云われている。私のがんになる前の生活を振り返ると、健康診断で「中性脂肪が高い」と十年近く言われ続けていた。「甘いものを控えて、もっと運動するように」と。しかし、その生活習慣をやめることはできなかった。

ごはんやパンを普通に食べていた頃は、食後猛烈に眠くなることがよくあった。食後2時間を経過するまで仕事(デスクワーク)にならなかった。また、外で夕食をドカ食いして、その後に胸の動悸が続き、帰りの電車の中で気を失ったこともあった。そのときは消化のため胃腸に大量の血を送り込んだので脳にまで血が回らなかったのだろう、と思っていたのだが、あとで調べてみると、食後、血糖値が上がり、血糖を細胞に取り込ませようと多量のインスリンが血液中に追加分泌され、その結果、逆に糖分が足りなくなって低血糖になり、脳に糖が行き渡らなくなったため、強い眠気や失神に襲われた、ということだった。

しかし、がん治療のため糖質制限食に代えたことにより、食後の眠気が嘘のようになくなった。これは食後血糖値が急激に上がらなくなり、インスリンの出方も緩やかになったからである。手元の糖尿病の本にも「糖質を控えれば、血糖値の乱高下がなくなり、血糖値は一定となります。すると、インスリンの大量分泌もなくなり、血糖値の急な上昇による「食後の眠気」がなくなったり、大幅に減ったりします」と書かれている(水野雅登「薬に頼らず血糖値を下げる方法」p.177 アチーブメント出版)。

話をがんに振ると、がん細胞は(正常細胞と同様)インスリン受容体(IR)というものを持っており、このインスリン受容体に血中のインスリンが結合することにより、スイッチが押され(注)、ブドウ糖ががん細胞の中に取り込まれる(古川健司監修「がんに勝つレシピ」(光文社)p. 150あたり)。したがって過剰なインスリンの分泌を抑えることができれば、スイッチの入る回数をできるだけ少なくし、がん細胞へのブドウ糖の取り込み量を減らすことができる。また和田洋己「がん劇的寛解(角川新書)」にはインスリン自体ががんの分裂や増殖を促す、ということが書かれている。「そして、このような食生活を続けていると、恒常的なインスリン過剰の状態に陥り、mTORの働きも連続的な亢進状態となって、がん細胞の分裂や増殖が加速度的に促進されてしまうのです」(同書112頁)。

なお、糖質制限食でインスリンの分泌を抑えるといっても、全くゼロにするのではない。糖質の摂取を極端に制限しても、すい臓から一日中ほぼ一定量の、生きていくのに必要なインスリンは分泌される(基礎分泌)。


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